お母さんが仕事をするということ

 長男が生まれて、仕事を再開したときは、思った以上にその両立の大変さを感じました。子どもを預ける決心をし、やっとの思いで保育園を探し、そして保育園に少しずつ慣れていく息子を見ながらも迷いは消えませんでした。子どもを育てながら働くことは、両手に重たい荷物を持って、エッジの上を歩いているような感覚がありました。何かバランスをくずしたらそこから落ちてしまいそうな、ギリギリの状態でした。

 大学時代に女性も一生の仕事をもつという考えに感化され、あのころは理想を描いていたのかもしれません。そして、仕事を持つ母に育てられた男性は女性が働くことに理解があると聞き、自分の息子は私が働くところを見せて育てたいという気持ちもありました。そうしたら、きっと将来働く女性に理解のある人になるだろうと思ったからです。しかし、まだキャリアとして走り出してそれほどたたない時期に、長男の大病を経験しました。長男が大病し、障がいが残るかもしれないという思ってもみない現実があり、仕事に対して考えていたおおまかな構図がガラガラと崩れていきました。当時同じ保育園に子どもを通わせているアメリカ人女性のキムから、「あなたの仕事は続けられるの?」と聞かれたことがありました。私自身仕事のことまで考えが及ばない時期でもあり、あの時私の「仕事」のことを心配してくれたことが心に残っています。その頃仕事を受けていた編集プロダクションと、小規模の出版社には、事情を説明し、しばらく仕事を休みますと伝えました。この出版社の女性の社長さんは、ご自身も3人の子どもさんを育てられた方で、「人生万事塞翁が馬ですから、何が幸いするかわかりませんよ」さらに、「5、6年はあっという間ですよ。またできるようになったら一緒に仕事をしましょう」と言われ、それ本当に嬉しい言葉でした。ただただ目の前のことに心奪われていた私にとっては、仕事先の方の言葉は、新鮮で勇気づけられました。

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